特色と透明効果のトラブルはなぜ起こる?

特色(スポットカラー)」の項でも説明していますとおり、CMYKカラー(プロセスカラー)で印刷する場合には、データ上で特色を使用しないようご案内しています。特に透明効果との併用は危険です。
実際に特色と透明を併用すると、保存の際に以下のような警告ダイアログが表示される場合もあります。

透明部分に特色が使用されている場合、Illustrator以外でのプロセスカラーへの変換では予期せぬ結果が生じることがあります。

この「予期せぬ結果」とは何なのか、なぜ使用してはいけないのかを、具体的な事例で説明します。

まず、図のようなIllustratorのデータがあったとします。

特色と透明を使用したデータ

CMYKカラーのオブジェクトの上に特色のオブジェクトがあり、そこには透明効果が設定されています。
このデータをEPS保存して出力システムに通し、システムで強制的にCMYK4色に変換したところ、以下のような出力結果になりました。

特色と透明を使用したデータの不正な結果

重なった部分の透明効果が無くなっています。なぜこのような現象が起こるのでしょうか。

オーバープリントの発生

まず、このデータの保存された後の内部構造を見てみましょう。
(説明の便宜上、斜めから重なりの様子を点線で表しています。)

特色と透明を使用したデータの構造

オブジェクト1が2つに分割されています。元データと比べて濃度も変化し、透明度は無くなりました。代わりにオーバープリント属性が付加されています(オーバープリントについて詳しくは「オーバープリント」をご覧ください)。
Illustratorのデータ上ではオーバープリントは設定されていないので、このオーバープリントは、保存時にIllustratorが付加したもの、ということになります。

Illustratorがオーバープリントを付加する理由

まず話の前提として、オフセット印刷では、版にインキを乗せ、これを紙に転写することで印刷します。当然ながら、特色印刷であれば特色の版に特色インキを乗せます。つまり、特色版の独立性が保たれている必要があります(特色が4色に分解されてしまったら、それは特色印刷ではなくなってしまいます)。

そこでまた先ほどのデータ構造を見てみましょう。
オブジェクトが分割されてしまっているのは、PostScriptが透明を表現する機能を持っていないためです。
※PostScript:出力システムのしくみのひとつ。EPSもPostScriptの一種。

透明機能が利用できない形式に保存する際、Illustratorは透明オブジェクトを、見た目は同じでありながらも透明は使用しない、という内容に作り変えます。
重なっていない部分の特色が「濃度100%、透明度50%」から「濃度50%、透明度なし」に変換されているのはこのためです。

ここで問題となるのが、重なっている部分です。透明効果によりCMYKカラーと特色が混じりあった微妙な色になっていたわけですが、EPS保存により透明効果が使えなくなったからといって、CMYKカラーでこの色を表現してしまったら、特色版ではなくなってしまい、版の独立性が失われてしまいます。
ここでIllustratorは、版の独立性を保ちながら透けた表現を再現するために、オーバープリントを利用して、2つのオブジェクトを重ねようとします。このために、本来データ上には無かったオーバープリント設定が発生するのです。

4色変換で発生するトラブル

この状態から、オーバープリントを破棄せずに、かつ特色を特色版としてきちんと処理すればなにも問題はありません。望んだとおりの結果が得られます。問題は、ここから特色をCMYKに分解してしまった場合です。

オーバープリント」の項でも解説していますが、オーバープリントとは他の版に対して乗せる機能です。
誤解されがちですが、透明効果とは違って同一版どうしではオーバープリントは有効になりません。オーバープリントが製版指定であり、例えば版ずれを防ぐために使用するといった用途から考えれば、ご理解いただきやすいかと思います(同一版の内容がずれることはあり得ないので、必要性がありません)。

ここで4色に分解した後の結果を見てみましょう。特色だったオブジェクトがCMYKカラーに変換されると、CMYKそれぞれのカラー値が発生します。そして、同一版どうしではオーバープリント設定に関係なく上にあるオブジェクトのカラーが有効ですから、結果としてこのように透明効果的な表現は無くなってしまったわけです。

特色と透明を使用したデータの構造 プロセス分解後

印刷事故を発生させないために

以上、IllustratorおよびEPSでの保存を例に説明してきましたが、現象の発生はこの例のみではありません。
例えばPDF書き出しの際にPDF/X-1aや、バージョン1.3での保存を行った場合、これらのPDFは規格上透明効果が使用できないので、上記のように透明効果は分割されます。

またInDesignからPDF書き出しをバージョン1.4以上で行ったとしても、リンク画像にEPSが使われていれば、そのデータはすでに分割されているわけですから、やはり同様の結果となってしまいます。

なお当社では、出力システムの処理系として、APPE(Adobe PDF Print Engine)を標準で使用しています。これはPostScriptに代わる新しい処理系で、透明を分割することなくそのまま処理することができます。
このため、当社でご案内しているIllustrator/InDesignのPDF作成ガイドでは、透明を分割しない設定となっています。またIllustratorで作成したデータをリンク画像として使用する場合、保存形式はEPSではなくAIを推奨しています。

とはいえ、根本的な原因は「必要のない特色を使ってしまっている」ことです。
トラブルの原因となりますので、4色印刷用データはCMYKのプロセスカラーのみで作成していただきますようお願いします。

※なおデータの挙動はあくまで一例であり、アプリケーションの種類やバージョンの違いにより異なる場合があります。


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