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新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻の影響で物価が上がっていますね。この先もまだまだ商品の値上げは続いていきそう……。
お金を増やせないかな?貯蓄?投資?でも、そもそもお金って、どうやって作っているのだろう?印刷会社なら作れるかな?そう考え、実際にオリジナル紙幣を創ってみました!!!

オリジナル紙幣を実際に創ってみた!

「偽札」ではありません!

もちろん現実の紙幣をそのまま真似て創るのでは「偽札」になってしまいます。言わずもがな偽札の製造は違法です。『偽札を作ったり、偽札と知りながらそれを使用した場合は、法律で罰せられます。また、本物の日本銀行券の額面を書き換えたり、切ったりして変造することも、同じように法律で罰せられます。』(出典:日本銀行 銀行券の偽造防止 : 日本銀行 Bank of Japan

今回作るのは偽札ではなく、あくまで「オリジナル紙幣」。「偽札」と判断されないよう、現実の紙幣よりもサイズを大きくしてみました!
(上に本物の1万円札を置いています)

なんで白鳥に…?

デザインで最初に目につくのは、白鳥でしょうか。
実際の紙幣には人物が取り上げられることが多いのですが、今回のオリジナル紙幣は白鳥のデザインにしてみました。
では、なぜ白鳥なのかといいますと…、

CHIYODA-KU NO TORI WA HAKUCHO DESUと小さな文字が描かれています。私たちの会社は千代田区に本社があるのですが、白鳥が区の鳥として制定されているのです。というわけで、白鳥をデザインの主役に選んでみました。

さて、この小さな文字のことをマイクロ文字といいます。お札の偽造でまず思い浮かぶのはコピー機にかけるやり方かと思いますが、このマイクロ文字は通常のスキャナでは読み取れない極小サイズで印刷されているので、コピー機にかけても正しく出力することができません。これが偽造を防ぐ仕組みになっているんですね。

ただし、今回のオリジナル紙幣は紙幣のサイズがそもそも大きいので、厳密にはマイクロ文字ではありません。マイクロ文字「風」でしょうか……?

もちろん、実際の日本の紙幣にも「NIPPON GINKO」のマイクロ文字が印刷されています(是非探してみてください!)。

キラキラさせてみた!

当社のロゴマークをホログラムで入れてみました!
ホログラム部分は光の反射する角度によって絵柄や色が変わって見えるようになっています。これもコピー機では再現できないので、偽造防止のための技術として紙幣に取り入れられているのです。

暗闇に現れる!?

このお札を暗所に持っていくと……百鳥圓の文字と印の絵柄が光りました!!

これは蓄光印刷という手法で印刷されたもので、発光している部分には蓄光インキという特殊なインキが使われています。蓄光インキは日光や蛍光灯の光を吸収し、それをもとに暗所で一定時間光を放ちます。発光する力は時間経過と共に減少しますが、再度光を当てれば繰り返し発光することができます。

なお、実際の日本の紙幣では「紫外線を当てると光を放つ」という技術が採用されています。

蓄光印刷って?

そもそも、蓄光印刷とは…?

さきほど登場した蓄光印刷とは、蓄光インキを使用した「シルクスクリーン印刷」の一種になります。

シルクスクリーン印刷⁇ 別記事で仕組みを紹介しているので、こちらからご覧ください。↓
オリジナルイラストでタトゥーシールを作ってみた!

簡単に言いますと、メッシュ状の版から蓄光インキを画線部に垂らす、というしくみです。年賀状などの印刷で活躍していた懐かしのプリントゴッコと同じですね!

プリントゴッコ:“PrintGocco body.jpg” by 茶でもすするか is licensed under CC BY-SA 4.0.

いざ印刷現場に潜入!!

こちらが実際にオリジナル紙幣を刷っている動画です。
版はメッシュ状になっており、百鳥圓の文字と印の絵柄の周囲(青緑色部分)は、インキが通らないように処理されています。(逆に言えば、百鳥圓の文字と印の絵柄部分はメッシュ状になっているため、インキが通ります。)
蓄光インキ(クリーム色の液体)を「スキージ」と呼ばれるヘラで伸ばし、百鳥圓の文字と印の絵柄からインキが押し出されることで、紙幣に印刷されています。

光る強さの違いって?

ここからは2つの紙幣を比べていきましょう。まず、暗所で【A】と【B】の2つを並べてみました。百鳥圓の文字と印の絵柄の光り具合が違うのが分かるかと思います。
まず、最初に刷ったのが【A】の紙幣です。【B】の紙幣と比べると光が弱いですね。
【B】の紙幣は、蓄光インキを【A】の紙幣より盛ったものになります。こちらのほうがより強く発光していますね!

同じ【A】と【B】を、今度は部屋の明かりをつけて比べてみます。
2つの紙幣の百鳥圓の文字に注目してみてください。文字の色が違うのが分かるかと思います。
元々の紙幣デザインでは百鳥圓の文字は黒色だったのですが、蓄光インキをたくさん盛ったことにより【B】の紙幣の文字は灰色になっています。
ここが難しいところで、発光する効果を求めて蓄光インキを盛れば盛るほど良い!というわけではなく、デザインとの兼ね合いでちょうど良い加減を探す必要があるようですね。

次は【B】と【C】の二つを比較していきます。【B】と【C】の2つは使用した蓄光インキの量は同じです。一方【B】は百鳥圓の文字の上にインキを載せていますが、【C】は紙幣のイラストは印刷せず、蓄光インキを使用する部分のみ印刷しています。

また、ここでは紙幣の絵柄が見えるように、暗闇ではなくすこし光が入るように撮影しています。

蓄光インキの量が同じでも、【C】のほうが強く光っていますね!

部屋の明かりをつけてみました。
よーく目を凝らしてみると、【C】は蓄光インキがクリーム色なのが分かるかと思います。蓄光インキの下のインキの色(百鳥圓の文字なら黒色、印の絵柄なら赤色)によっても、光り方に違いがあることが分かりました。

インキの盛り方やインキの下の絵柄など、蓄光印刷の仕上がりには様々な要素が絡んでいます。イメージした仕上がりを実現するためには、試し刷りは必須と言えます。

蓄光インキはどうやって盛るの??

蓄光インキを厚く盛ってオリジナル紙幣の光り方に違いを出してみました。
ではどうやってインキを盛っているのでしょうか?いくつか方法をご紹介します。

① 乳剤を厚く塗る(複数回塗る)
② 版の網目を粗くする
③スキージ圧でインキ量を調節する
(※乳剤等の言葉等もオリジナルイラストでタトゥーシールを作ってみた! – するするを参照ください)

基本的に厚く盛りたい場合は、①の方法がメインとなります。
② でも厚く盛れますが、②はインキを多く落とすことを目的としており、ラメ印刷のように「ラメの粒子を多く落としたい!」というときに活用する方法です。
結果的にインキが多く落ちるため、厚くはなりますが、網目を粗くすると細かい表現が難しくなるので、単に厚く盛るだけであれば①を採用します。

今回のオリジナル紙幣のサンプルA~Cでは③の方法を採用!! A~Cは3つとも同じ版を使用したので、版を変えなくてもインキが盛れる③が必然的に今回の選択肢となりました。
※③は①の方法で進行するほどインキの盛り加減を調整できるものではなく、あくまでも多少の範囲となります。

おわりに……

「オリジナル紙幣を作ってみよう!」という趣旨から始まったこの企画、いかがでしたでしょうか。
今回ご紹介したもの以外にも、紙幣には様々な偽造防止の技術が取り入れられているので、次の機会にでもご紹介できればと考えています。

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