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うちの印刷機はどれだけ「走っている」のか?

春は印刷会社の繁忙期。官公庁をはじめ日本の組織は4月1日を新年度のスタートとするところが多いので、それに付随して印刷物の需要が高まるのです。
過酷な作業予定をクリアするために、印刷機のローラーは毎日ものすごい速さで回転しつづけています。では、このローラーが車のタイヤだったら、走行距離はどれほどになるのか? 一日印刷機を回していたら、印刷機はどこまでいってしまうのか……? 今回はそんな検証企画になります!

印刷機が、走る……?

ローラーがあるんだから走れるでしょ?

印刷機とは、版(印刷の原稿)にインキをつけて版から紙にインクを転写する機械。このインキのやりとりのために、印刷機にはローラーがいくつも内蔵されています。大きく分けると版胴/水ローラー/インキローラー/ブランケット胴/圧胴の5つです。

このうち、紙に接するローラーはブランケット胴。ブランケット胴を車のタイヤに見立てると――タイヤは紙の上を走っていることになります。
ということは、印刷機で使用する用紙のサイズと枚数をもとに、印刷機が走った距離を計算することができるのです。式に直すと、以下のようになります。

印刷機が走る距離=用紙がローラー(ブランケット胴)の下を通る向きの辺の長さ×用紙の枚数

印刷機で使用する用紙は「原紙」といい、サイズは以下4種類の規格で分かれています。

例えばA4のパンフレットを印刷する場合、はじめからA4サイズの用紙を用意するのではなく、まずA判(または菊判)の原紙を印刷機にかけます。印刷が終わったところでA4サイズになるよう断裁・製本し、A4の冊子ができあがるのです。

今回の計算に必要なのは、原紙が印刷機に通る向きの長さ。A判でいえば625mmが該当します。この長さ×印刷枚数を計算することで、印刷機が走る距離が求められます。

君、ひとっ走り行ってきなさい。

今回の検証に駆り出されたのは、弊社印刷部のSM102-8P(ハイデルベルグ社製)1号機。カラーの両面印刷が可能なマシンです。兄弟分の2号機・3号機ともども弊社の印刷工程を支えており、堂々たる主力印刷機の座にあります。

彼に入った1日の作業予定をもとに、一つ一つの作業の走行距離を計算していきます。

どうせ走るなら……

印刷機が走った距離を出す……だけではもったいないので、出た走行距離をもとにSM102-8P 1号機には東海道五十三次をたどる出張に出てもらいましょう。印刷現場のあわただしさに乗せてお送りする東海道の旅、どうぞお楽しみください!

とある日のSM102-8P 1号機 東海道出張記録 
3月◯日、機械の平均回転数:10,500回転/h

8:40 作業開始

機長M氏の操縦のもと、本日の作業を開始! が、機械を作動させたところ機械間でエラーが発生。早速出鼻をくじかれるも、電源を入れなおして稼働。作業内の平均回転数:0回転/h

走行距離:0km
地点:日本橋

歌川広重の東海道五十三次には大名行列がよく登場します。もし大名行列で出だしからトラブルを起こしてしまったら……短気な大名様ならその場で切腹かもしれませんね。こわいこわい。

8:45~10:10

次は◯×製薬様の患者向け資料の印刷。色見本の濃度が薄かったので、色を合わせるのにてこずる。作業内の平均回転数:9,900回転/h

走行距離:60.42km
地点:藤沢宿を通過、馬入の一里塚跡付近に到着しました。

10:10~11:45

同じく◯×製薬様の案件。こちらも色見本の濃度が薄いため、色味の調整に難儀。特に紫のベタが赤に転びやすいのでひやひやする。作業内の平均回転数:9,800回転/h

走行距離:73.14km/累計133.56km
地点:原宿(静岡県沼津市)を通過。浮嶋が原にある依田橋の一里塚跡に到着です。

このあたり一帯は富士山のふもと。広重の絵ではだいぶ大きく強調されていますが、どこを歩いていても山影が拝めます。

依田橋一里塚跡のGoogleストリートビューでも、奥に富士山がのぞいていますね。

11:45~12:30

昼休み。

12:30~13:40

△□企画様が制作・デザインした会社案内の印刷。色見本が古かったものの、順調に進行。作業内の平均回転数:11,000回転/h

走行距離:34.98km/累計168.54km
地点:江尻宿を通過、草薙の一里塚跡へ到着。府中宿をめざします。

草薙の一里塚跡。隣のタヌキ、何かよからぬことを企んでいそう。

13:40~14:15

急遽予定を変更して飛び込みの作業が入るとの連絡あり。ひょっとしてタヌキのたたりなのか……? 製版部から版が下りてくるまで機械を止めて待機する。

14:15~15:05

版が到着。◯△広告様から請けた案件で、とある自治体の都市計画をまとめたパンフレット(300頁弱)のうち2頁だけ先行して印刷したいとのこと。時間指定もあり、現場の雰囲気があわただしくなる。作業内の平均回転数:11,800回転/h

走行距離:3.4375km/累計171.9775km
地点:いまだ府中宿には到着できず。

徳川家康が晩年を過ごしたとされる府中の安倍川。絵画もあべ川餅も、仕事が落ち着いたらゆっくり味わいたいものです。

15:05~17:35

□×出版様の絵本の本文の印刷。品質基準が厳しいお客様の案件で、すでに2回本機校正を出しており、今回が本番。きっちり色合わせをしてから印刷にかかった。部数が多いので失敗は許されない……。作業内の平均回転数:9,500回転/h

走行距離:114.48km/累計286.4575km
地点:一気に二川宿まで通過! 柳生川を越え、飯村の一里塚跡へ。

飯村の一里塚跡は東海道、国道1号線、大池通りに囲まれた小さな三角地帯の端に残されています。だいぶひっそりとした佇まいですね。

17:35~17:50

休憩。

17:50~18:40

同じく□×出版様の絵本の見返し部分の印刷。作業内の平均回転数:10,500回転/h

走行距離:31.8km/累計318.2575km
地点:岡崎宿を通過、池鯉鮒宿へ向かいます。

広重が岡崎で描いたのは矢作橋。橋の向こうに見えるのが岡崎の町並みです。味噌煮込みうどん食べたいな……夕方になるとさすがにおなかがすきますね。

18:40~20:00

引き続き□×出版様の絵本案件、今度はカバーとカバーにかける帯の印刷。ここから片面のみの印刷になったため、ペースが上がる! が、ペースを上げたからなのか、小さな水漏れが発生……。作業内の平均回転数:11,700回転/h

走行距離:40.875km/累計359.1325km
地点:宮宿を通過して桑名宿へ。宮宿~桑名宿まではもともと水路で渡るものでした。機械の水漏れはこのためでしょうか……? 冗談はさておき、タイヤ(ローラー)で水上を渡るわけにもいかないので、今回は迂回して陸路(国道1号線)で向かいましょう。

宮宿の熱田神事の様子。本日のクライマックスに向けて、弊社の印刷現場も駈馬(かけうま)のごとく稼働しております!

20:00~20:40 本日の最終作業

本日最後の作業も□×出版様の絵本。絵本の顔となる表紙の印刷。引き締めて作業にとりかかる。作業内の平均回転数:11,700回転/h
さあ、SM102-8P 1号機はどこにたどり着いたのか……?

最終結果発表!

総走行距離:372.7575km

最終地点:惜しくも桑名宿にはたどり着かず……伊勢大橋を渡り切ったところが最終到達地点となりました。

完成当時は東洋一の長さを誇っていたという伊勢大橋。旅の最後を飾るにふさわしい眺めです。
なお、もし仮に水路で向かっていた場合、最終地点は揖斐川(いびがわ)が伊勢湾にそそぐ河口付近となっていたようです。せめて陸に上がらせてほしかった。

まとめ

いかがだったでしょうか。1日で370kmというと、長距離トラックドライバーに準ずるぐらいの走りっぷりです。やはり印刷機は相当な働き者でしたね。
また、作業ごとに機械の回転数を切り替えていることにもご注目ください。印刷機の回転数は機種ごとに異なり、今回活躍したSM102-8Pの最高回転数は12,000回転/hとされています。とはいってもただ速く回せばよいというものではなく、オペレーターが印刷内容や条件を考慮して回転数を調節することで、はじめて最高品質の製品が完成するのです。
今日あなたがどこかで手に取るちょっとした印刷物も、ひょっとすると長い長い旅路の一端なのかもしれません。

参考

本記事にて掲載している歌川広重の『東海道五十三次』の浮世絵の画像は、キヤノン株式会社様が運営する「クリエイティブパーク」の名画カテゴリよりダウンロードして使用させていただきました。

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