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印刷会社各部署の仕事に必須な道具をご紹介する七つ道具シリーズ、第3回は製版部にお邪魔しています!

弊社では制作部と同じフロアにあり、かつどちらもパソコンが多く設置されていることもあいまって外目にはよく似た雰囲気の部署ですが、見た目だけではわからない奥深さのある部署なのです。

それでは、製版部の仕事を七つ道具からのぞいていきましょう!

密着取材! ~製版部の道具たち~

インタビュアー(以下「イ」):本日は製版部の道具について迫っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします!

製版部員G・H・I(以下「G」「H」「I」):よろしくお願いします!

イ:まず製版部の主な業務ですが、名前のとおり版をつくることですよね。

I:そうですね、版には印刷物の絵柄が焼き付けられていて、これを印刷機のローラーにセットして回転させることで絵柄が転写されていきます。われわれの主な仕事は、お客様からいただいたデータを版のかたちにしていくことですね。

H:弊社ではさらに細かく「お客様のデータからPDFを書き出す工程」「PDFを加工して版のデータをつくる工程(面付)」「データから実際の版をつくる工程」の3つに分割して作業していますね。前の2つのみを製版と呼んで、最後の一つを独立して「刷版」と呼称する場合もあります。

G:もう一つの大きな仕事が校正を出すことです。出校ともいいますね。位置づけとしては面付の後に【出校/刷版】のどちらかに進むといった感じでしょうか。データを専用のプリンターにかけて、校正を出します。この校正を基準にして、本番の印刷の色味を調整していくんですよ。

イ:当たり前ですけれども、どちらものちの印刷工程につながる作業なんですね。

I:ええ。製版のことを英語でprepressというんですが、これは「印刷(press)の前(pre)」だからprepressなんですよ。

イ:なるほど……それでは一つ目の道具からお願いします!

G:はい。制作部の七つ道具、一つ目は……

G:DTPソフトです。お客様からいただいたデータを開くのに必須ですね。

イ:なるほど。制作部でもAdobeのソフトが七つ道具入りしていました。使用しているソフトの種類はだいたい同じなのでしょうか……?

G:いえ、もっと広いですよ! 製版部ではお客様のデータを開けないと仕事にならないので、Adobe以外にも様々なソフトを用意しています。DTPソフトとは言いましたが、正確にはDTP用ソフトでないものでも対応しています。たとえばMicrosoftのWord、PowerPointなんかの文書作成ソフトですね。Adobeももちろん用意していますが、制作部で使っているものよりさらに古いバージョンも対応していますね。

H:もっと細かい話をすると、データをただ開けるだけではダメなんです。お客様と同じ環境で開けないといけません。たとえば同じデータを同じソフトで開いても、ソフトのバージョンや所有している書体が違うとデータの見え方が変わってしまうことがあります。たとえば書体が違うものに置き換えられてしまったり、改行位置がずれてしまったりとか……。

I:これではお客様の意図したとおりに印刷できませんよね。お客様のデータをそのまま印刷するためには、お客様がデータを作成した環境と同じ環境でこちらも作業する必要があります。

イ:そうなると確かにいろんなソフトを用意しておくことになりますね! ソフトの用途も様々でしょうか?

H:うーん、制作部と比べれば用途はそこまで幅が広くないかもしれません。基本はデータからPDFを書き出すことですから。

I:そうですね、PDF作成以外だと画像の補正をすることかな。Photoshopで行っています。

G:ほかには……ちょっとピンポイントですが、各種認証のマークを貼り込む作業もありますよ。たとえばFSCマーク。冊子やパンフレットの裏表紙に貼り込むケースが多いです。

イ:一般の方々にとってはお菓子のパッケージなんかで見かけることが多いかもしれませんね。

G:ええ。ざっくりいえば、紙の原料となる森林資源の保護に努めていることを示す認証のマークです。これを印刷物に入れることで、お客様が森林資源保護にコミットしていることをPRできるわけですね。流れとしては、お客様からいただいたデータを製版部で開いて、マークを所定の位置に貼り込んでからPDFを書き出すことになります。

I:もともと弊社はこういった環境配慮関連の制度や認証には積極的に取り組んできましたし、最近はお客様からの関心も高まっています。FSC以外に貼り込めるものでいうとカーボンオフセット、グリーンプリンティング、グリーン電力証書……挙げていくとキリがないですね!

二つ目の道具は……?

イ:ありがとうございます。二つ目の道具をお願いします。

I:はい。二つ目は線数ゲージです。

I:これは印刷された絵柄のスクリーン線数を確認するためのシートです。スクリーン線数とは「1インチの中に網点の列が何本入るか」を表す単位で、数字が大きくなればなるほど繊細な絵柄が印刷できる、ということです。これをアミの絵柄に置くと……

イ:あ、何か模様が浮かび上がっている気がします! 写真だとちょっとわかりづらいですが……

I:ええ。モアレの最も少ないところが、この印刷物の線数に該当するわけです。今回でいうと175線になっていますね。

G:ほかにも、網点の角度がわかるゲージも隣についています。網点は等間隔で生成されるものなので、たとえばCMYKの4色で印刷を行う場合、各色の網点の角度が同じだとモアレが発生したり、色が濁って黒ずんでしまうんですよ。それを防ぐために、網点の角度は各色で少しずつずらして印刷することになります。

H:ずらす角度によってモアレ等の出方が変わってくるので、同じ絵柄を印刷する際には網点の角度を揃える必要があります。それをこのゲージで確かめられるんです。

G:これも絵柄に重ねると目盛りに印が浮かび上がりますよ。線数が175線だからここの目盛りを見ていって……

イ:15°、45°、75°のところに渦ができていますね!

I:ええ。CMYKのうち3色は今表示された角度で網点が並んでいます。残りの1色は0°になっているのかな。

H:線数と網点の角度がわかることで、「この印刷物がどんな条件で刷られたのか」を把握することができます。これが印刷の色味を調整するのに役立つんですよ。たとえば前回ほかの印刷会社さんで刷ったものをうちで刷るときに、前回の見本にこのシートをあてて線数と網点の角度が把握できれば、うちの設備でも前回の条件に近い状態で刷ることができますから。

I:さきほどのソフトの対応幅の話と同じで、お客様の環境にうちが合わせていくことが重要になるからこそ、こういったツールが必要になるんです。

三つ目の道具は……?

イ:なるほど……。三つ目の道具をお願いします!

I:はい。三つ目はプリンターですね。

G:製版部にはプリンターが3種類あるんですが、すべて校正を出す際に使うプリンターです。用途によって使い分けていますね。

H:まずPRIMOJET(プリモジェット)。3つのなかでは一番きれいに校正が出せる、インクジェット式フルカラーのプリンターです。インクジェット式ではあるものの、オフセット印刷で用いられる網点を疑似的に再現することができるんですよ。だから、印刷の色見本として使うことができます。ただ、出力するのには結構時間がかかります。A全サイズ(625mm×880mm)を1枚出力するのに6分ほどですかね。

イ:オフィスにあるようなインクジェットプリンターだと1分で何十枚も出力できますから、かなりゆっくりなんですね!

I:本や冊子の表紙なんかだと色味が大事になりますから、PRIMOJETがよく使われていますね。もちろん本文に使ってもいいんですけど、ページ数の多い冊子なんかをすべてこれで出力するとなると結構な時間をいただくことになります

H:次はColorWave(カラーウェーブ)。これはPRIMOJETと同じくカラーで校正を出力できますが、色味の再現度は一歩劣るといったところです。その分出力はずっと早くて、A全1枚が15~20秒ぐらい。校正を出すけれども色味についてはそこまで重視していないケースなどでよく使われますね。

I:具体的にいえば2色印刷のお仕事などでよく使われますね。参考書や問題集なんかだと本文はスミ+CMYのいずれか1色、あるいはスミ+特色といったかたちで印刷するものがけっこう多くて、そういったお仕事の校正にはCOLORWAVEが活用されています。

H:最後にプロッターです。これはモノクロでしか出力できません。出力するスピードはCOLORWAVEとだいたい同じです。必然的に「印刷の品質に問題がないか」という校正ではなく、「図がちゃんと差し替えられているか」「誤字脱字がないか」など軽い確認をするための校正としてお出しすることが多いかと思います。

G:この3つのほかにも、PRIMOJETよりさらに精度の高い機器で校正を出力するケースもありますよ。校正を出す目的や予算、スケジュールなんかの兼ね合いで、どのプリンターを使うかを決めることになります。もっとも、決めるのは製版ではなく営業ですけどね。

四つ目の道具は……?

イ:なるほど……。四つ目の道具をお願いします!

I:はい。プレートセッターです。

イ:大きいですね! 全体を収めるのはあきらめます……

I:版のデータをもとにこの機械で網点をプレートに焼き付けて、印刷機の版として仕上げます。

H:オフセット印刷は水と油の反発作用を利用した方式ですよね。この反発作用が発生するように版を加工していくのがプレートセッターです。

I:プレートはもともと感光層という親油性の薄い層でおおわれています。プレートにレーザーをあてて、絵柄の入らない部分を露光させます。露光した部分は親油性ではなくなるのでインキが付着せず、露光しなかった部分は親油性のままなのでインキがつくことになります。

G:実際に版として使うためにはレーザーを露光した部分をはがす必要があるんですが、はがす作業は印刷機にセットしてから行います。版を印刷機にかけて印刷を開始すると、はじめの10枚前後を印刷するタイミングで水とインキによって露光部分が剥がれ落ちて、印刷した用紙に付着して排出されるようになっているんですね。剥がれ落ちたあとは、きちんとした版として使えるようになります。

H:以前はこの露光部分の剥離作業は製版部で特殊な薬品などを用いて行っていたんですが、水を大量に使ったり廃液が出たりと環境にやさしくない作業だったんですよね。剥離作業を印刷機で行う方式に切り替えたことで環境負荷が大きく低減しました。

I:この方式で製造する版のことを無処理版といったりしますね。今弊社の版はこの無処理版のみです。

G:とにかく、プレートセッターから出てきたら版の出来上がりです。版ができたということは、製版部の仕事もこれでひと段落となりますね。あとはエレベーターで下のフロアの印刷部にお渡しするのみです。

イ:なるほど……四つ目にしてきれいに区切りがつきました。ありがとうございます!

後編は弊社製版部の本領発揮!?

製版部の七つ道具を四つ目までご紹介しました。一般の方々にとって製版工程は印刷や制作ほどわかりやすいイメージがないかもしれませんが、この記事をきっかけに製版に興味を持っていただければ幸いです!

ところで、弊社の製版部は日ごろからあることに注力しているのだそうです。後編ではきっとそのお話が中心になるのではないでしょうか。公開まで今しばらくお待ちください……!

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