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香る!印刷 ~見る・読むだけじゃない!香料印刷の仕組み~

香料印刷をご存知でしょうか?
インキに香料を混ぜることで、こすると香る印刷物を作成することができるんです!
ノベルティグッズなどで手に取ったことがある方も多いかもしれません。
筆者にとっては、さかのぼること四半世紀前の子ども時代、漫画雑誌に「こすると桃のかおりがするよ!」なんていう付録のカードがついていたのを思い出します……。
そんな香料印刷ですが、現在は様々なアイテムに進化し、活用シーンが広がっています!
また、香料印刷は知ってるけど、どうやって作っているの? という疑問にもお答えします。

香料印刷の「今」にせまる

アイディア広がる! 香料印刷のバリエーション

バレンタインフェアのチラシに…
購買意欲をそそるチョコレートの香りを。

何種類もの花の香りを同じシートに印刷すれば、一面から花束の香りが…

試合が白熱するほど、雅な香りが立ち昇る…
伽羅の香りの百人一首。

季節の香りのポストカードはいかがでしょうか?
たとえば、秋は金木犀の香りをのせて。

みかん狩りのチラシに、柑橘系の香りを付けて、行きたい気持ちにもう一押し。
【注】香料印刷は食べられません。

しおりに森林浴の香りをプラスして、リラックスしたい読書タイムに。

うちわ+香料印刷=虫よけうちわ!?

暑~い夏の定番アイテム、うちわ。
そこに古くから除虫効果があるとされるシトロネラ(レモングラスの仲間)を香料印刷すると……?
なんと虫よけもできるうちわになります。
シトロネラはちょっと好みが分かれる香りですが、シトロネラ以外に無臭の虫除け剤も印刷できます(無臭の虫除け剤+お好みの香りを混ぜて印刷することも可能)。
うちわはこすったり、扇いだりしなくても、置いておくだけで虫よけ効果があるとされています。

コロナ禍ならでは・・・

アロママスクシール……マスクに貼る香りのシールで、気分転換するのはいかがでしょうか。顔の近くなので香りを感じやすく、気軽にリフレッシュできます!

芳香剤のテスターとして……コロナ禍以降、手を触れる物には神経質になりがちです。以前はあたり前だった店頭の商品サンプルも、不特定多数の人が手を触れるので中止することが多くなりました。そこで、店頭に実物のテスターを設置する代わりに、商品の香りを印刷したテスターを設置。お客様一人一人が手に取って試せるようにしました。

紙からデジタルへの移行は、このコロナ禍を機に一層進んだように思われます。紙の印刷物は一見不利なようですが、デジタルでは伝えられない嗅覚の部分でアピールするのも一案かもしれません。

香ることのメリット、香料印刷に出来ること

ふと感じた香りから、懐かしい思い出がよみがえった──。そんな経験はありませんか?
フランスの作家マルセル・プルーストの小説、『失われた時を求めて』に、主人公が紅茶にひたしたマドレーヌの香りをきっかけに、幼少期を思い出す描写があります。
そこから、「特定の香りに起因して、記憶や感情が呼び起こされる現象」を、『プルースト効果』と呼ぶようになりました。
原始的感覚といわれる嗅覚は、人間の持つ五感のなかでも、唯一、ダイレクトに脳に伝わる感覚といわれています。つまり、嗅覚は人間の最も根源的なところに働きかける感覚ともいえます。

印刷物は視覚効果に訴えかけるメディアですが、香料印刷を用いる事で、この嗅覚にもアピールが可能となります。
街中で、ふと、似た香りをかいだとき、あるいは、店舗でもらったチラシをカバンから出したとき。
香りによって引き出された記憶が、離れた場所からでも商品を意識したり、購買意欲を刺激する・・・。
その効果は、”紙に印刷された宣伝物”を超えて、視覚のみならず、嗅覚や触覚に訴えかけるものになるかもしれません。

香料印刷はここから生まれる──。香料印刷のラボに行ってみた

7月、都内某所

香料印刷の秘密に迫るべく、我々取材班は都内某所にあるラボにお邪魔してきました。
こちらのラボでは、日々香料インキの試作・実験を行っています。
到着すると、さっそく白衣を着た社員の方が迎えてくださいました。そして、ラボの中には香料インキの素となる香料の容器や顕微鏡がズラリと並び、早くも良い香りが……。まるで理科の実験室のような、なんだか印刷会社っぽくない雰囲気です。
実際に作成した製品を見せて(嗅がせて)いただきつつ、お話を伺ってきました。

そもそも香料印刷の仕組みって?

インキ内に混ぜ込んだ香料のカプセルを、指で擦るなどして割ると、中の香料が出て香りを感じることができるのが、香料印刷の仕組み。

まず、使用したい”香り”を決めたら、その香料オイルを作成、またはメーカーから購入、あるいは依頼者の持ち込みにより、入手します。
香料オイルを水に入れて攪拌し、細かい粒状にして、表面にゼラチンをまとわせて冷やすと、ゼラチンの膜に包まれた香料のマイクロカプセルが完成します。

ゼラチンに包まれたオイルは、攪拌する際に粒同士が引きちぎられることにより、ラグビーボールのような形をしています。
マイクロカプセルの大きさは約30ミクロン(ミクロンは1mmの1000分の1なので、0.03mm)。
このマイクロカプセルをインキに混ぜて印刷すると、”香料印刷”となります。インキ中に、カプセルは約20%含まれています。

香りを作る・混ぜる・印刷する

オリジナルの香りを作ってみよう

今までに作成された香りは、植物と食べ物を中心になんと約130種。その中から、目的に沿った香りを探すことが可能です。
しかし、オリジナルの香りをオーダーし、新たに作成するのも、わくわくしますよね。
「新製品の香水の香り」や、「食品の香り」など、宣伝したい商品の香りを持ち込んで、目的・用途に合った香りを作成することができます。
特に、店頭でお客様に現物を手に取って頂いたり、試飲・試食が難しくなってしまった昨今、「香り」のサンプルを紙に載せて「配布」できたら……!
ここで注意したいのは、香料印刷には向かない香りもある、という点。
焦げた匂い・発酵した匂い(酸っぱい匂い)は、揮発性が高いため、すぐに香らなくなってしまいます。
また、人の頭には香りの「イメージ」が既に定着しているため、リアルな香りを作ればよいというものでもない、なんてことも(いわゆる“イチゴの香り”と本物の苺の香りって違いますよね)。
香料オイルを作成したら、まずはカプセル化できるか、どの程度長持ちするか、実験が必要となります。
こちらのラボでは、50℃の環境に40時間放置し、香りが持続できるかのテストを行っています。

香料カプセルが完成したら、インキにまぜて、いざ印刷!

紙はコート紙135㎏以上を推奨です。なぜなら、ザラザラした紙だと、紙の繊維の間に香料が入り込んでしまい、擦ってもカプセルがうまく割れず香らない可能性があるため。
製本や輸送の過程で擦れて、多少カプセルが割れることはありますが、すべてのカプセルを割り切ることはなかなか無いので、刷ったあとも香りは1年はもつとのこと。
ここで大事なポイント。
印刷面はカプセルが割れることで香るため、”擦る”というワンアクションが必要です。
よって、「ここを擦ると香りがします」等の注意書きを入れたデザインにしなければなりません。
その必須のワンアクションを、ネガティブに捉えるか、ポジティブに活用するかは、アイデア次第。
ページをめくる際に指が擦れる場所に香料印刷をほどこして、「あれ、なんかこの本、いい香りがする……?」と自然に香らせる冊子や、遊び感覚で”擦る→香る”を楽しさに変えた、子供向けの絵本などもありますよ。

おまけ~嗅覚で行動をコントロールできる!? 日常で使える、アロマの効果~

「香りは、人間のもっとも根源的なところに働きかけることができる」と書きましたが、ここで”香りの活用法”について、ちょこっとご紹介します。
すでに活用されている方も、半信半疑に胡散臭いと思われている方もあるかもしれない、「アロマテラピー」。
本当に香りが脳に働きかけるのか!? 目的に応じて、実践してみるのはいかがでしょうか。
ここでは、特に有名な、そして入手しやすい5種をセレクトしてみました。

  • リラックスしたい/緊張の緩和/安眠/ストレス解消……ラベンダー
  • 気分転換/リフレッシュ/花粉症や鼻づまりに効果……ペパーミント
  • 血行促進/元気/食欲不振の改善/不安・憂鬱の解消……オレンジ・スイート
  • 虫よけ/筋肉痛や肩こりの症状改善/緊張感の緩和……レモングラス
  • 安眠/肌の炎症を鎮める/免疫機能を高める……ローズ


アロマテラピーの精油は、専門店はもちろん、最近は雑貨店でも気軽に入手できますので、ぜひ一度お試しあれ。

(参考:羽鳥冬子著『アロマテラピー使いきり・組み合わせ事典』 株式会社マイナビ)

印刷物の効果を、嗅覚にまでひろげる『香料印刷』。
想いを香りに乗せて、より記憶に残る、見る・触るを超えた印刷物を作ってみるのはいかがでしょうか。

(取材協力 サンエーカガク印刷)

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