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色彩表現の幅を広げろ! ~特色ならどこまでいける?~

印刷に携わっていると、たまに耳にするのが「おたくの印刷物、データと印象がちがうよ」というご指摘。
皆さまお持ちのディスプレイは、個体差や機器の設定、ご使用環境(部屋の照明)だったり、そもそも印刷はそんなに色彩表現の幅がないので・・・といったやむにやまれぬ理由があるのです。とはいえ、印刷会社に勤めていてもそのしくみを詳しく説明できるかといえば・・・。
というわけで、あらためて筆者自身も色の仕組みを学びなおしつつ、さらにもっと色彩豊かにするにはという観点で、ちょっとした印刷の実験までやってみました。
色のしくみを知ることで、プリンタを使うときや印刷会社に印刷を依頼する時に、この記事が少しでも参考になったりして…!?

色のしくみって…?

画面はこんなにキレイなのに

多くの人が一度は経験したことがあるのではないでしょうか。

自宅や職場にてカラープリンタで印刷したときに、あれ?イメージしていた色とちょっと違う気がする…暗いような…といった感じに、“画面で見た色”と“紙に印刷された色”とで印象が変わって見えたという経験が。

パソコンに映っている画像を印刷した時に、紙に印刷された色が暗く見える現象・・・
これは、パソコンなどのディスプレイ上で見ている色と、紙に写し出された色とで、色を表現する仕組みが違うからです。それぞれの仕組みを簡単にまとめてみました。パソコンのディスプレイと印刷物とで違いを見ていきましょう。

パソコンのディスプレイの表現方法・特徴

● 赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)という「光の3原色(RGB)」の組み合わせよって色を表現。
● 液晶が自ら光を発色し、色を作り出している。
● この3原色は、色を混ぜれば混ぜるほど明度が上がり、全て同量混ざると白になる。
(加法混色と言われている)

印刷物の表現方法・特徴

● 藍(Cyan)、紅(Magenta)、黄(Yellow)という「色料の3原色(CMY)」と黒(Key plate)を加えた4色(CMYK)によって色を表現。
● 絵の具やインキに光を当てると、色材が一部を吸収し、残りが反射光となって色として認識されている。
● このCMY3原色は、混ぜれば混ぜるほど明度が下がって、黒に近づいていく。
(減法混色とも言われている)

それぞれの違いについて学んだところで…

次は、それぞれの色の表現できる範囲を見ていきたいと思います。

こちらの図は、「ガモット図」といって色の再現域をイメージしたものです。図を見るとわかる通り、CMYKの再現域が、RGBの再現域より狭いことが分かります。その為、2つの色の再現域の差がイメージのズレを生む原因となっています。印刷物をつくる際にはシステムを通してデータ上でRGBからCMYKの、近似色(領域内の似た色)に変換されます。 近似とはいえ、そもそも領域から遠く離れた色であれば、大きく異なる色に変化するのは想像にかたくないと思います。

印刷で再現幅を広げるには

このように、ディスプレイ(RGB)と印刷(CMYK)の「表現方法の違い」や、印刷は「再現幅が意外と狭い」ということがわかってきました。それでも『もっと鮮やかにしたい』、『インパクトのある表現を』という要望は無くならないもの。ここからは、印刷でも再現幅を広げる方法のひとつについてご紹介していきます。

そこで特色印刷の登場!

そもそも特色とは・・・

特色とは、CMYKでは再現できない色を表現するためにあらかじめ配合されたインキのことです。「スポットカラー」や「特練色」ともいわれています。パールや金、銀、鮮やかなパステル色、蛍光色のほか、プロセスカラー印刷では濁った色になってしまいがちなオレンジ色、薄い赤や青といった色などは、特色印刷を使用することで美しい色味で表現することができます。

また、特色は各メーカーの色見本帳を参考にして色を指定するのが一般的です。 代表的なメーカーでいうと、

● PANTONE(パントン社/アメリカ):1,114色

● DIC(DIC株式会社):2,230色

● TOYO(東洋インキ製造):1,050色

などといったものがあり、様々な企業が製品のブランド性を保つために企業ロゴなどに特色を利用しています。例えば、みなさんご存知のスターバックスの緑はPANTONE3298、旧twitterの青い鳥はPANTONE 2382Cの特色を使用していました。普段意識していなくても、実は私たちの身の周りにはたくさん特色が潜んでいるのです。

特色を使うことでこんなメリットも

①正確な色で印刷することができる!(自分のイメージどおりの色)
例えば…「■■という企業ロゴの赤にしたい」といってもどんな配合かわかりませんが、そのロゴが『DIC●●』である場合、「DIC●●で!」と指定することで、正確な色を指定することができます。

②あらかじめインキを調合する為、仕上りに色ムラがない!

③フルカラーで版を4枚使って印刷するより、特色の版1枚で印刷した方が安く済む!(ことがある)

特色を作っている現場へ・・・

特色についてもっと詳しく知るには、実際に特色を作る現場を見に行くのが一番!
日経印刷には調色作業をしている “調色名人” とやらがいると耳にしたので、さっそく会いにいくことにしました。
調色絵の具などを調合して,望みの色を作ること。


調色名人?

そういえば会ったことないけど、強面の職人みたいな人がやっているのか…?
色を知り尽くしたすごい人なのかな…? いろいろな期待や不安を抱えながらいざ現場へ!







なんと・・・調色名人は人ではなく、まさかの機械でした!!!
調色名人と聞いて、すっかり強面の職人だと思っていたら、実は機械の名前だったのです…!
実際に目で見るとわかる事実もあるものですね。まさに百聞は一見に如かず。

特色ってどうやって作っているの?

実際に見学にいった作業部屋は、部屋の中心部にこの大きな調色名人が設置されています。かなりの存在感です。
説明が抜けていましたが、調色名人とは、正確に・スピーディーに特練インキを製造できる機械のことです。PCに登録されているデータを読み込むと、インキの配合を自動的に計算し、特色インキを生成します。その後、生成されたインキの色を確認するためにLTテスターという機械を使って展色します。
(※展色とは…練られたインキを実際に印刷する用紙に少量採り、薄くのばして色の誤差を確認する作業のことです)

LTテスター

これで特色インキの完成かと思いきや、もう一つ作業が残っていました。
さきほどLTテスターに通した用紙を乾かすという作業です。
インキは塗りたてと時間をおいた後とでは色の出方が変わってしまうため、ドライヤーで乾かして正確な色が出ているかを確認しなければなりません。
そういった作業の積み重ねで、見本により近い特色インキが出来上がります。

おまけ ~調色の職人さんに聞いてみた~

  Q. 1色を作る時間はどれくらい?
  A. 大体平均5分くらい。

  Q. 1日何色くらいつくるの?
  A. 平均して25色、多い時で40色。

  Q. どの色を作るのが難しい?
  A. セピア(茶色系)・グレー(紙によって色の出方が変わるため)

  Q. ここ半年で一番作った色は何番?
  A. DIC181

ちなみにこの色です!! 👉

色のしくみを学んだところで・・・

CMYKで大体の色は再現できますが、より鮮やかさを出したいときに特色を1~2色足して印刷することが多いようです(筆者調べ)。もっと特色を使えば、再現できる色の範囲を広げることができて、CMYKだけで刷るよりも華やかな印刷物に仕上がるのでは・・?

そこで私たちは、通常では行わない色数での印刷にチャレンジしてみました。

色をいっぱい使うとなると、何を印刷しよう?カラフルなもの…と考えに考えた結果、一際目を引くアンブレラスカイにしました。ただ、どこかのアンブレラスカイのスポットを撮影して印刷するだけだと物足りないので、当社グラフィックガーデン工場の廊下とアンブレラスカイをコラボレーションした画像を作成し、A1サイズのポスター風に仕上げてみることにしました。
(データ作成と構成は、プリンティングディレクターのHさんにお願いしました)

たくさんの部数を印刷する場合はオフセットで印刷しますが、実験には大掛かりすぎるので、平台校正機で印刷することに。
※平台校正とは・・・平らな台の上に紙をセットして印刷する方法です。オフセット印刷とは違い、1枚1枚印刷する台の上に紙を乗せて印刷していきます。
(オフセットについての詳細は、【うちの印刷機はどれだけ「走っている」のか? – するする】の記事をご覧ください)

実験① ~まずはスタンダードに~

絵柄すべてをプロセスカラーのみで印刷!

実験② ~とりあえず特色をふんだんに使って~

①の傘6色と壁のロゴ色を特色6種に変換し、プロセスカラー + 特色インキで印刷。
特色インキは、下記の6色を使用しています。

  • ・ TOKA FLASH VIVA DX 200(蛍光ピンク)
  • ・ TOKA FLASH VIVA DX 500(蛍光オレンジ)
  • ・ TOKA FLASH VIVA DX 610(蛍光イエロー)
  • ・ TOKA FLASH VIVA DX 630(蛍光グリーン)
  • ・ TOKA FLASH VIVA DX 850(蛍光ブルー)
  • ・ DIC 2181(水色)

※ 特色部分以外はプロセスカラーで表現しています

実験③ ~より高みを目指して~

①のプロセスカラーで表現した傘6色と壁のロゴ色をやや薄くし、②で選んだ特色を薄めにのせて印刷。
※ プロセスカラーの階調(立体感)を残しつつ、特色の発色を加えて(補色して)います。
※ 雰囲気を増すために芝生にも特色を使用しています。


三つ並べてみると、こんな感じです。

実験①
実験②
実験③

色の表現方法はさまざま!!

ディスプレイ(RGB)の色と印刷を近づけるという、当初の話の趣旨からは少々逸れてしまいましたが、特色の実験を行ったことでインキでの表現でもずいぶん幅が出せるということがわかりました。

また、「とにかく発色を良くしてみよう!」と蛍光色をたくさん使ってみたけれど、ただ特色だけをたくさん使えばいいという単純な仕組みではないということが分かりました。(ただし、今回実験②の印刷のように、蛍光をたくさん使えば見る人の目を引くことは間違いないですが!)

プロセスカラーと特色、それぞれバランスよく組み合わせることでより目立たせたり、鮮やかさを出したり立体感を表現できるようになるのですね!
この記事をきっかけに、印刷をする際は特色を上手に使って表現の幅を広げてみてはいかがでしょうか。

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