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印刷というと、はじめに思い浮かぶのは本や雑誌、チラシや名刺などの「紙の印刷物」ではないでしょうか。しかし、印刷は実際には紙以外のさまざまな素材にも対応している技術であり、「水と空気以外には何でも印刷できる」といわれるほどの守備範囲を持っています。

今回は紙を離れ、MDFというちょっと変わった素材に「印刷」してみました。……そもそもMDFって何だろう?というところから、じっくりご紹介していきます!

今回の主役、MDF

MDFとは

MDFとはMedium Density Fiberboardの頭文字を取った略語です。日本語では「中質繊維板」や「中密度繊維板」などと呼ばれ、家具などに用いられることがあります。DIYがお好きな方にとってはなじみのある素材かもしれません。

MDFのつくりは「木材のチップを蒸煮(じょうしゃ)して繊維を分解し、そこに接着剤として合成樹脂を加え、板状に成型する」というもの。冒頭で「紙を離れる」と書いておきながら何なのですが……実は「木材のチップを蒸煮して繊維を分解する」というところまでは、紙をつくる(=製紙)工程と若干似ています。

さて、「木材を分解してまた固める」となると、気になるのは「木材と何が違うのか?」というところでしょうか。これは、木材とMDFを並べてみるとかなりはっきりします。木材は天然ものをそのまま切り出しているので木目や節が入ります。いっぽうMDFは前述の加工を経ているため、均一な仕上がりになっていますね。それでいて「木」のイメージが失われていないのが魅力です。

MDFのメリット

MDFは、その製造過程からいくつかメリットを持っています。

まずエコフレンドリーであること。MDFの原料には、間伐材や廃材など通常であれば廃棄される木材を用いることができます。不要な森林伐採が抑制され、森林資源の保全につながるのです。

もう一つはローコストで使用できること。前述のように間伐材・廃材を使用することから、木材に比べて安価な素材として活用することができます。

さらに、加工がしやすいこと。木目も節もないことから切り出しが容易であり、温度による伸び縮みやひび割れも天然の木材より起こりにくいので、とても扱いやすい性質を備えています。見た目も均一な仕上がりになるので、素材としてはとても都合がよいのです。

君、印刷に向いてるね? インクジェットとかどう?

ところで、仕上がりが均一になる、ということは表面が平滑になることを意味します。つまり、インキが乗りやすい。そう、MDFは印刷にも適した素材なのです。

ただし、MDFに対応する印刷は、通常の紙の印刷(オフセット印刷)とは違い、インクジェットという方式を用います。

インクジェット印刷とは

オフセット印刷ではインキを版胴の版に付着させ、ブランケット胴を経由して紙に転写する、という順番で印刷を行っています。ただ、オフセット印刷は機械の構造上紙以外への印刷は原則できません。

今回印刷する素材はMDF。このMDFに対応可能な印刷方式がインクジェットです。インクジェットはオフセットとは違い、版を用いません。印刷する絵柄を読み込み、絵柄の通りに微細なインクの粒を噴射(ジェット)するかたちで印刷を行います。オフィス用のプリンターでもよく採用されている印刷方式の一つです。

オフセット印刷と比べてやや簡易的なシステムではあるものの、環境を整えればかなり品質の高い印刷が可能です。実際に、オフセットの設備をもつ印刷会社でも、校正を出す際にはインクジェット方式の大判プリンターを用いることは珍しくありません。また、いわゆるオンデマンド印刷といわれる小ロットの印刷では、インクジェット方式の印刷がメインになっています。

この方式であれば、紙以外にも様々な素材に印刷ができます。食品の包装フィルムへの印字やTシャツのプリントサービスなど、インクジェット方式の印刷は意外となじみ深いのではないでしょうか。また、少し前に話題になった3Dプリンターもこのインクジェット方式を利用しています。

ご存じでしょうか? アンブレラマーカー、そして彼を……

さて、MDFに印刷して何をつくるのか? 今回はアンブレラマーカーを製作します。アンブレラマーカーとは、一言で言えば傘の取り違え防止グッズ。傘の柄の部分に取り付けて、自分の傘の目印にするアイテムです。

ただの便利グッズにとどまらず、おしゃれのワンポイントにもできそうですね。また、ゴムリングで留めるつくりなので、傘以外にもペットボトルなどさまざまなものに使用できるのも特徴の一つでしょうか。

アンブレラマーカーというと一般にはアクリル素材のものが多く出回っていますが、近年の脱プラスチックの流れからグッズの素材にアクリルはNGとなるケースも増えてきました。そこで、環境にやさしいMDFの出番というわけです。

さて、どんなデザインで作りましょうか? ロゴを入れるのはなんだかお堅くて難しいし、何かかわいらしいマスコットキャラがいればちょうどいいのですが、そんなものいたでしょうか?

――はい……

おや……?

いました。彼の名はカラフルダルメシアン。デザイナーが張り切って立ち絵を何パターンも描いたのに、社内でもその名を正確に覚えている者はごくわずか。目下活躍の場が月一でお客様へ配信するメルマガぐらいしかないという、不遇極まる弊社のマスコットキャラクターです。

マスコットとしての地位を向上させるため、今回は彼を起用させていただきます! いい意味で(?)シンプルな絵柄なので、印刷も簡単に違いありません。

MDFに印刷してみよう!

白いインキ?

印刷に少しでも知識のある方であれば、カラフルダルメシアンの体色がCMYKの4色をなぞっているのがおわかりかと思います。印刷の色の表現はC:シアン/藍、M:マゼンタ/紅、Y:イエロー/黄、K:ブラック/墨の4色のインキから基本が成り立っており、各々を組み合わせて様々な色を表現しています。

ただ、これはあくまで紙の印刷に限った話。注意が必要なのが、白の表現です。特殊な場合を除いて、紙の印刷では白=何も印刷しないことをさします。つまり、白というのは紙にインキが乗らず、紙の地の色がそのまま出る状態のことなのです。さきほどのCMYKにも「白」は入っていませんよね。

一方今回印刷するMDFは、白=インキを乗せない、というわけにはいきません。インキが乗らないとMDFの地の色が出てしまうためです。また、MDFに限らず素材の地の色が白ではない場合、その上にインキが乗ると素材の地の色が干渉し、想定とは異なった色に見えてしまうことがあります。

ということで、地の色が白くないならば、白いインキをまず引く必要があります。そのあとに、いつものCMYKのインキで印刷していくわけですね。

コゲつき注意!?

印刷が終わったら、次は断裁。紙の印刷物では刷り上がった原紙を断裁機に通して加工しますが、MDFは「カッティングプロッター」というレーザーカッターで切り抜きます。

レーザーで切り抜くためには、目印となるカットライン(=フチ)をデータ上で入れておく必要があります。紙の印刷では印刷後に行う断裁作業の基準となるトンボという線を入れますが、カットラインはこれに近い役割を持っています。

ここで注意が必要なのが、カットラインと絵柄の間を若干あけておくこと。MDFをレーザーで切り抜くと、切り抜いたフチが熱で若干コゲることがあります。ということで、コゲが出ても絵柄にかからないよう、カットラインは絵柄から2mmほど離して入れるのがよいようです。絵柄ギリギリに入れるのはあまりおすすめしません……

紙の印刷物と多少勝手は違うものの、基本の仕組みや工程は共通していますね。

実物が届く……

データ入稿から1週間後、ついに校正が届きました。紙の印刷で「校正」というとゲラ刷りで出てくることが大半ですが、今回のMDFグッズは校正が本番と全く同じかたちで上がってくるとのこと。つまり、完成品をはじめから確認することができるのです。

果たしてその仕上がりは……?










おお!

カラフルダルメシアン、無事にMDFデビューを飾りました!

白版含め、元のイラストがきれいに再現されていますね。また、さきほど書いたカットラインと絵柄の間の部分はMDFの地の色が出るので、どこか手作りっぽさがあるのもポイント。MDFの素材感のあたたかさ・ナチュラルなイメージは、アクリルのグッズにはない良さです。

ということで無事校了、こちらで本番の製造に進行しました!

傘につけるだけでなく、ペットボトルのキャップ部分の下につけて使用するのもOK! 家族でお出かけの際に持っていくマイボトルの目印にしても、ビジネスの打ち合わせでお出しする飲み物につけても、会話がはずむかもしれませんね。

今後もご期待ください!

紙以外の印刷物として、今回はMDFへの印刷を取り上げました。MDFは印刷を含め様々な加工が可能であり、今回はご紹介していませんが、レーザーで文字や模様を刻印することも可能です。

記事内で製作したアンブレラマーカー以外にも様々なグッズに対応しています。お問い合わせやご質問等ございましたら、「お問い合わせする」からお気軽にご送信ください。

さて、紙/紙以外にかかわらず、今後もちょっと変わった印刷をご紹介していきますので、どうぞご期待ください。そして、唐突にするするへ初登場してしまったカラフルダルメシアンの今後にもご注目いただければ幸いです……。

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