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Stable Diffusionをご存じでしょうか? これは2022年の8月に公開された無償で公開された画像生成AIであり、キーワードを打ち込むと自動で絵を描いてくれるプログラムです。

今回はこのStable Diffusionに“印刷“の絵を描いてもらいます。AIは印刷をどこまで理解しているのか? そしてその理解は正しいのか? とくとご覧あれ……!

Stable Diffusionについて

自由でオープンな画像生成AI

冒頭にも書いたように、Stable Diffusionはキーワードから画像を自動で生成してくれるサービスです。いわゆる機械学習をもとにした仕組みで、20億枚の画像とキーワードのペアが学習されているのだそう。ただキーワードにマッチした画像を出力するだけでなく、画風にも幅があり、うまく指定すればダ・ヴィンチ風、歌川広重風・古代エジプト風……などさまざまなテイストで画像を生成してくれます。今回使用しているデモ版はソフトのインストール等の必要はなく、Webブラウザがあれば利用可能、そして商用利用OKなので、だれでも気軽に使うことができます。ソースコードが一般公開されており、Stable Diffusionを応用したサービスも続々登場しています。

ただし、必ず思い通りの画像を生成してくれるとは限りません。Stable Diffusionに限った話ではありませんが、キーワードの文脈をうまくとらえられていないのか、はたまた参照しているサンプルが偏っているのか、絶妙にズレた画像ができあがることもしばしば。そんなAI特有のズレの面白さもあいまって、ここ数カ月のSNSでは「Stable Diffusionが生成した奇抜な画像」の投稿が後を絶ちません。

フェイクニュースに利用されるのではないか、デザイナーやイラストレーターの仕事を奪うのではないか、といった懸念はありつつも、現在最もアツいAIコンテンツといって過言はないでしょう。

AIが認識する“印刷“を見てみたい

ということで、今回はStable Diffusionがどれだけ印刷をよく知っているのかを見ていきましょう。やり方はいたってシンプル。印刷や印刷会社に関連するキーワードを入力し、Stable Diffusionが生成する画像を確認するのみです。さまざまなキーワードを試しながら、なるべくリアルな(?)印刷の絵を描いてもらえるよう試行錯誤していきます。

お題その1:「印刷機」

やはり一番初めに描いてもらいたいのは印刷機でしょう。印刷業界はこれがなければ成り立ちません。AIの20億の引き出しをもってすればお安い御用ではないでしょうか。

ただし、ここで注意が必要なのがキーワードは英語で入力する必要があるということ。Stable Diffusionは日本語への対応がまだ発展途上なのか、日本語で入力してもほとんど関係のない画像が生成されるようです。ということで、印刷機→printing machineで入力してみましょう!

出てきた画像は……


……なるほど、確かに印刷機の雰囲気はあるのですが、印刷会社で一般に行われている印刷=オフセット印刷の設備ではないようです。どちらかというとオンデマンド印刷の設備のように思われます。

オンデマンド印刷とは

オンデマンド印刷はオフィスのプリンターにも採用されていることがあるので、比較的なじみのある印刷かもしれません。大きく分けてトナー式とインクジェット式がありますが、今回はトナー式をご紹介します。

まず、オンデマンド印刷はオフセット印刷と違い版を使いません。かつトナー式ではインキの代わりにトナーを使用します。トナーは色がついた極小のプラスチックの粒子で、これをプラスの電荷とマイナスの電荷を利用して紙に転写していきます。

オンデマンド印刷は版をつくらないため、少部数の印刷であればオフセット印刷よりも安く・速く印刷ができます。一方で紙の種類によっては対応できなかったり、部数が多くなってくるとオフセット印刷よりも割高になったりなどのデメリットもあるので、一般の印刷会社では仕様や部数によってこの2つを使い分けています。

オフセットを求めて

本題からちょっと外れてしまいましたが、印刷会社といえばやはりオフセット印刷の機械を描いてほしいところ。キーワードをoffset printing machineに変更してみましょう!


これはなんだろう……オンデマンドではなさそうですが、オフセットだとも言えません。まだまだキーワードに改善の余地がありそうです。

印刷機はprinting pressという言い方もあるようなので、offset printing pressではどうでしょうか?


あまり進歩が見られません。





その後もキーワードのうち“offset printing”の部分を固定しながら他を入れ替えて何度かトライしたのですが、正解といえるような画像は生成されず。しかし、数を重ねていくうちにある傾向が見えてきました。それは、

そう、機械の特定の部分がずっと連なっている画像が頻繁にできあがるのです。

これはどういうことなのか? こちらがあまりにしつこくお願いするからStable Diffusionが手抜きをはじめたのでしょうか? ここでいったん正しいオフセットの印刷機を見てみましょう。

一般的なオフセット印刷機は上の写真のようなつくり。大きくフィーダ部、印刷部、デリバリ部の3つに別れており、中央の印刷部には印刷ユニットというかたまりがいくつか並んで設置されています。この印刷ユニット1つ1つに1色ずつ版がセットされており、オペレーターがここにインキを入れていきます。紙がこのユニットを通ることでインキが紙に重なっていき、さまざまな色が表現できるようになっています。

……勘の良い方にはもうおわかりでしょうか。どうやらStable Diffusionの画風に影響を及ぼしているのは印刷部に連なっている印刷ユニットのようです。

オフセット印刷の機械に限らず、多色刷りの印刷機には必ずこの印刷ユニットが複数並んで設置されています。おそらくですが、Stable Diffusionは数々のオフセット印刷機の画像を読み込んで「同じ部分が連なっていればオフセット印刷機になる」という理屈で学習してしまったのではないでしょうか。

曲がりなりにも機械の外見的特徴を抽出できているのは面白いですね。ただその特徴が印刷機の仕組みと紐づいていることにまでは学習が及んでいないようです。そもそも学習素材が画像+キーワードのみなので、そこまで求めるのはさすがに酷かもしれませんが……。

下手な鉄砲も……?

いや、あきらめてはいけません。「同じ部分が複数連なっている」というポイントはおさえているのだから、試行回数を重ねれば「きちんと印刷ユニットが複数連なっている」パターンも描いてくれるはず。それがどんなに確率の低い事象だとしても、引き当てるまで粘ればいいのです!

キーワードを毎回変更していては回転数に支障があるので、offset printing machineに固定。Stable Diffusionは毎回同じキーワードを指定しても毎回違う画像が生成されるようになっています。これを利用してoffset printing machineの画像をひたすら依頼し続けます……












粘りに粘りましたが、弊社の工場にあるような機械にピタリと重なるような画像は結局生まれませんでした。そんな中でも一番実際の印刷機に近いのでは?と思われるのが下の画像です。


なんとか印刷ユニット(らしきもの)がうまく連なっています! さきほどの正解の画像よりも少々小ぶりな設備ですね。おそらく書籍や雑誌などの印刷に使うには難しいかもしれませんが、ラベル(シール)などの小物を扱う機械であればこれぐらいのサイズ感でもおかしくはありません。

率直に言えば、印刷ユニットの様子が若干怪しかったりフィーダ部とデリバリ部が見切れていたりと減点部分がないわけではないのですが、今回はこれをゴールとします!

次回のお題は……?

1つ目のお題は力業で乗り切ってしまいましたが、Stable Diffusion ができること/できないことについて理解が一歩深まりました。「画像+キーワード」のみで学習している都合上、外観が複雑なものを再現するのには少々差し障りがあるようです。印刷機とはやはり高度で精密な機械なのだと思い知らされました……

次のお題は……といきたいところなのですが、少々長くなってきたので今回はここまで。続きは後編にて取り上げていきます!

後編はこちらよりご覧ください。

参考

Stable Diffusion デモ版
https://huggingface.co/spaces/stabilityai/stable-diffusion

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